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エッセイ【Baby Step】Essay

春を待つ庭

2022年11月29日

チューリップの球根を植えた。
あったかい陽ざしのなか、腰をかがめてせっせと作業をしていると、汗ばむほど。
立ちあがって背をそらすと、おだやかな青空が広がってる。
汚れたれ軍手に小さなシャベルを持ったまま深呼吸しながら、 
膝腰がビミョーに“くの字”になってる自分に気づく。
あぁ、これってもうじいさんばあさんのポーズじゃぁぁん、トホホ・・・。
思えば球根植えるなんて幼稚園のころ以来だから、何年ぶりだ?
・・・・うっそぉ、もしや5,5,50年以上・・・??
いやはや,半世紀がすぎてるって、冗談はよしこさん・・・。
トホホのタハハですワ。

一坪ほどのわたしの庭は、ここへきて一気に緑が増えてる。
雪で折れたり虫に食い荒らされてダメになってしまった沈丁花や木槿も、
新しく苗から植えなおしたのがすっかりのびて、その下には鈴蘭や時計草が。
イロハモミジはまだ葉先が赤いだけだけど、
鉢植えのヤマザクラはもう葉を落としてただのひょろりとした細い棒みたいになってる。
玄関に置いたらダメだよ、運気が落ちるよと、芽がでた矢先にご近所さんから指導がはいり
裏手に移動させた藤は、巻きつく先を求めてつるをゆらしてる。
去年、ともだちの孫の内祝いにもらったゴールドクレストは倍くらいの丈になって、
わがやのウエルカムツリーに。
お孫ちゃんももうしゃべるようになったかなぁ。
よその子はあっという間に大きくなるもんなあ。
などと思いを馳せる。

このコロナ禍の2,3年、友だちでも直接会うことはほぼなくなってしまった。
それどころか、今は身内にも会えない。
今年の1月、転倒して大腿骨と手首を骨折した母は、救急搬送されたものの、
手術まで2週間以上待たされた(-_-)
そもそも救急車が来てから、病院が決まるまでえんえん断られ、
やっと決まったところもなんと3万円の個室しか空いてないがそれでもいいか?
との条件付きだったそう。
一緒に散歩中だった弟は、否応なくOK。
いざ、入ってみたら、なんと実は一泊3万7千円で、泣いた!!というのは、またべつのお話。
といいたいとこだけど、いやいやアナタ、あせりますよ。
そんなとこに一か月もいられた日には、こっちが死んじゃう。
と思ったら、さすがに数日で移してくれたけれど。
その高級個室!がどんなものだったか知るよしもないが、
病院はリニューアルされてまもないピッカピカの高層で、隣はなんとあのヒルトンホテル!!
そりゃぁ、大新宿のパノラマも見事でしょうよ。
せいぜい堪能してよ、お母さん・・・。

で、ワクチンの接種証明を毎回見せて検温と消毒のうえ、やっと上がれる病棟も、
大きな全面ガラス張りのドアのむこうは立ち入り禁止。
エレベータホールのインターフォンから、
看護師さんに連絡してタオルやらパジャマやらもろもろの受け渡しをするさい、
様子をきくのが精いっぱい。
ときどきスマホを渡すと、動画を撮ってくれる看護師さんがいて、
母が照れてもういいわよぉと笑ったり、
手術前なのに骨折した腕で手をふったりする姿に、
安堵したりした。

結局、面会は手術の当日だけ。
といっても、手術室から元の病室に戻るまでの数秒間、エレベータの前で見守るだけという徹底ぶり。
手術前には会って頑張っての一言もかけたいどこだけれど、万が一感染でもしたらと、アウト。
手術中、前の廊下で待つことも禁止。
家族はただ予定終了時刻に、病棟前に来ればいい。
まぁね、あの手術室前のシンとした硬い椅子でひたすら無事を祈りながら待つしかない緊張感を味わわないですむのだけは、ありがたいともいえるけれど。
ともあれ、そうして出てきた母はストレッチャーの上、酸素マスクやら管をつけ、
まだ麻酔も覚めておらず、ただわたしの目の前を通りすぎていく。
おかぁさん!と思わず近よりかけると、看護師がすっと手で制した。
なんだかね・・・。

だが、2か月近い入院中、何度か、看護師さんが車椅子の母を押して、
わざとガラス戸のむこうを通りかかり、ときにはドアをあけ、
おかぁさん! あら、あんた、どうしたの?! と、
声をかけあうことができるようにしてくれたりもした。

手術は成功したけれど、認知症で自分が骨折したことも覚えていない母は、
車いすのまま、転院することになった。
母がそうだったように、入院を待っている人が大勢いるのだった。
ニュースでは搬送困難事例と言って、救急車が来ても5時間以上病院が見つからないケースだとか、
医療ひっ迫が日々伝えられていた。
いやぁ、大変な時代になったもんだ。
母はまだ、ラッキーなほうだったのね。

2か月ぶりにあった母は、そこそこごきげんで、見送りの看護師さんに手を振った。
転院先のリハビリ病院でも、面会は禁止。
だが、せめてスマホの写真で様子を確かめたくて、3日に1回、
自転車にリハビリパンツや衣類をつんで片道35分の道のりをガシガシこいだ。
3か月後、残念ながら、母は車いすで我が家へ戻ってきた。
一時はおそるおそるながらも立って数歩あるけるようになり、
わぁ、クララが立った!おかあさんが立った!と喜んだこともあったんだけれど・・・。

入院が規則で決められているマックス3か月までのびたのは、
家をバリアーフリーにする工事が遅れたせいだった。
コロナ過に加え、ロシアのウクライナ侵攻でリフォームの資材と人手が滞っていたのだった。
世界情勢がほんとに日常生活にまで影響を及ぼすんだと、この年になって初めて実感した。

帰ってきてからのことは、もう怒涛のよう。
ひとには言えない、いいたくもない介護の現実に、わたしの体重はあっという間に3キロ落ちた。
ま、これはいいことか。
車いすで思うようにならない母は、とても陽気な人だったのに、
なにかにつけイヤだ~~っと叫んだり、わけのわからない奇声を発したりした。

が、ある夜、ベッドに寝かせようとして失敗したときは、違った。
抱きあげようとしたとき、母が急に足元からくずおれ、
二人でずるずるとしりもちをついてしまったそのとき。
母は悲鳴をあげることなく、ただ恐怖の瞳でこちらをみすえていた。
わたしの二の腕をつかんだまま。ひたすらじっと。

強度の不安におちいると、こどもは泣きださない。こどもながらに、
じっと耐えるのだと聞いたことがある。
ああ、おんなじだ。
おかあさんは、こどもなのだ!

ごめんね、痛かった?
母をだきおこし、ベッドに乗せるのに、それからどれほどかかったんだったろう。
10分や20分じゃきかなかったかも。
無事、横になった母はタオルケットをかけてあげると、やっと小さく息を吐きだした。
びっくりした?怖かった?おどろいたよねぇ、ごめんね、でも、おかあさんもがんばったね。
わたしがふにゃっと笑いかけると、母もふにゃらっと笑ったように見えた。

もう、いやんなっちゃう!!!どうにかしてよ!!消えてくれていいんですけど!!
正直、それまではそんなふうに叫んでいた。
もちろん、叫ぶのは母がデイサービスに出かけたあとだったけど。
洗濯機をまわしながら食器を洗いながら、わたしは日々一人で叫んでた。
母顔負けの悲鳴も発した。あ“~~~~っ!!!!ぎゃぁ~~~っ!
王様の耳はロバの耳!
毎日毎日大きなため息をついた。
でも、そうやって吐き出すと、少し呼吸が楽になるのだった。
で、自分で自分を笑ったりもした。
いやぁ、これって絶対ご近所にきこえたりしてるよな?お母さんより、
私のほうがよっぽどおかしいと思われてるかも・・・とかとか。

が、おかあさんだってがんばってるんだと悟ったあのしりもちの一夜以来。
モノをこぼしたりいろいろ失敗したり汚したり、
情けなくて情けなくて泣きたいようなことの連続でも、腹が立つことは激減した。
と同時に母の身体を起こすコツやスプーンを口に運ぶタイミングとかもつかめてきて
、時々昔のような明るい表情がみられるようになってきた。
これならずっとうちで面倒がみられるとほっとし始めた矢先、
ディサービスでコロナのクラスターが発生。
すぐに休ませたが、母は7人目の罹患者になった。
この時も、救急車は20分ほどで駆けつけてきてくれ、ものの数十分で入院先が見つかり、
隊員からラッキーでしたねと安堵された。
コロナは助かったが、結局、2か月後、療養型病院というのに転院することになって、
今はまたもや、面会禁止の日々が続いている。
認知症には孤独が最大の敵なのに、日々、一人病室の天井を見上げ、母はどんな思いでいるんだろう。
せめて毎日、会うことができればいいのに。

もうすぐ師走。
元気があっていいと黄色いハイビスカスを喜んでいた母のために、
9月に追加した赤いハイビスカスが、まだ新しいつぼみをつけている。
実際のところ、母が帰ってこれる見込みはほとんどない。
それでも、母のために、チューリップを植える。
明日はビオラも植えようか。

ここへきてまるでむきになったように緑を増やしてるのは、癒しのためだろうか。
いや、もっとそれ以上ダワ、きっと。
葉っぱが落ちてただの棒っきれみたいになったヤマザクラだけど
細っこい枝には小さな赤い芽がいっぱいついている。
沈丁花にももうつぼみがつきだした。春はまだまだ先なのに。
アイビーにはちいさな葉っぱが芽生えてる。小指の爪より小っちゃいのに、
ちゃんと大人の葉っぱと同じ形をしている。なんてかわいいの。
一見、冬枯れの庭にも春の日々が息づいてる。
希望 祈り 命 自然 風 雲 空
いっぱいの緑を深呼吸して、わたしは生き返っているんだな、きっと。

みなさんは、いかがおすごしでしたか?

長いこと会えなかった友達に会ったときみたい。
思いついたこと、勝手にば~~っっとしゃべって、やっと一息つく。
なんかそんな今回でありました。
こんどはもっと楽しい話題でおめにかかれますよう。
Love,peace& Togetherness☆彡